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「みなし残業があるから、残業代は出ません」と言われていませんか。

入社前に「固定残業代○時間分込み」と説明を受けて、なんとなく納得した方も多いと思います。 でも実際に働いてみると、決められた時間を大きく超えて残業しているのに追加の支払いがない、その「おかしい」という感覚は、正しい場合がほとんどです。

みなし残業(固定残業代制度)は、条件を満たせば合法です。 しかし現実には、違法な状態で運用されているケースが非常に多い制度でもあります。 この記事では、固定残業代が違法になる具体的な境界線、実際に損している金額の計算方法、そして未払い残業代を取り戻す手順を、労働基準法の条文をもとに解説します。

悩む人
「固定残業代40時間分って聞いてたのに、毎月60時間以上残業してる。これって残業代を踏み倒すための制度なんじゃないの?」

みなし残業が「おかしい」と感じる直感は正しい

まず結論から言います。

みなし残業(固定残業代)制度は、3つの条件を満たさなければ違法になります。 そしてその条件を満たしていない職場は、決して珍しくありません。

みなし残業(固定残業代)とはどんな制度か

みなし残業とは、「毎月一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う」という制度です。

たとえば「固定残業代40時間分・3万円込み」であれば、月40時間までの残業代はすでに支払い済みとみなされます。 ただしこれには、いくつかの厳格な条件があります(労働基準法第37条)。

固定残業代が合法になる3つの条件(最高裁判例に基づく)
- 固定残業代の金額と時間数が、雇用契約書または就業規則に明記されている - 固定残業代の時間数を超えた場合は、超過分を追加で支払う運用がある - 基本給と固定残業代が、給与明細で明確に区分されている

この3条件を1つでも欠いていると、会社は全残業時間分の残業代を支払う義務が生じます。 「合意して入社したから仕方ない」という考えも誤りです。労働基準法第13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件は無効とする」と明記しており、違法な条件への合意は法律上無効となります。

「求人票に書いてあった」だけでは不十分

「求人票に固定残業代込みと書いてあったから合法」という思い込みは危険です。

求人票の記載だけでは不十分で、実際の雇用契約書または労働条件通知書への明記が必要です。 さらに、超過分の追加払いが実際に行われていなければ、その運用自体が違法になります。

  • 雇用契約書に「固定残業代○時間分・○円」と時間数と金額が両方書かれている
  • 給与明細で基本給と固定残業代が別々に記載されている
  • 固定時間を超えた月は、超過分が追加で支払われている

この3点が全部「YES」であれば合法の可能性が高いです。 1つでも「NO」なら、未払い残業代が発生している場合があります。

みなし残業が違法になる5つのパターン

「おかしい」と感じたとき、それが実際に違法にあたるかを確認しましょう。

以下のどれかに当てはまる場合、会社に残業代の追加支払い義務が生じている可能性があります。

こんな運用は違法になる場合があります
**パターン1: 固定時間を超えても追加払いがない** 固定残業代が40時間分であれば、41時間目以降の残業代は別途支払わなければなりません(労働基準法第37条)。「うちは固定残業だから何時間残業しても給料は変わらない」という説明は、この条件を満たしていれば違法です。 **パターン2: 契約書に時間数が書かれていない** 「残業代込み月給25万円」とだけ記載されていて、何時間分が含まれているか不明な場合。固定残業代としての有効性が認められないとした裁判例(最高裁・日本ケミカル事件・2017年)があります。 **パターン3: 固定時間が法定上限(月45時間)を超えている** 時間外労働には原則として月45時間・年360時間の上限があります(労働基準法第36条・36協定)。特別条項なしに45時間超の固定残業代を設定している場合、その超過部分は無効となります。 **パターン4: 基本給が最低賃金を下回っている** 固定残業代を除いた基本給が最低賃金を下回っていれば、最低賃金法違反になります。特に「月給は高く見せるが基本給は低い」構造の給与体系に多いパターンです。 **パターン5: 残業単価の計算基礎に問題がある** 固定残業代込みの給与をそのまま残業単価の計算基礎にしていると、実際の残業単価よりも低く算出されます。これも法令違反に当たります。

特に多いのがパターン1とパターン2です。 タイムカードや業務記録を手元に用意して、実際の残業時間と支給された残業代を照らし合わせてみてください。

このセクションのポイント
固定残業代が「合法」かどうかは3条件で決まります。条件の明示・超過払い・給与明細での区分、この3点を必ず確認してください。

実際にいくら損している?残業代の計算方法

「なんとなく損している気がする」を、具体的な金額に変えましょう。

未払い残業代は計算してみると、月数万円・年間で数十万円になることは珍しくありません。 しかも、退職後2年間(2020年4月以降の分は3年間)は請求権が消滅しません(労働基準法第115条)。

残業代の計算ステップ

月給から「計算基礎賃金」を算出する
1時間あたりの残業単価を計算する
実際の残業時間から固定時間を引いた差を出す
割増率(1.25〜1.5倍)をかけて未払い額を算出

具体的な数字で計算してみる

月給28万円(固定残業代40時間分・4万円含む)で、実際に月60時間の残業をしているケースを例に計算します。

ステップ1: 計算基礎賃金を出す

固定残業代を除いた基本給は 28万円 - 4万円 = 24万円。 ※役職手当・職務手当などは計算基礎に含めます。通勤手当・家族手当など法律で除外が認められている手当(労働基準法施行規則第21条)は除外できます。

ステップ2: 残業単価を出す

月の所定労働時間を160時間とすると、1時間あたりの賃金は 240,000円 ÷ 160時間 = 1,500円。 時間外労働(月60時間以内)の割増率は1.25倍なので、残業単価は 1,500円 × 1.25 = 1,875円/時間。

ステップ3: 差額を計算する

固定残業代でカバーされるのは40時間分まで。 超過した20時間分(41〜60時間目)の未払い残業代は 1,875円 × 20時間 = 37,500円。

毎月37,500円の未払いが発生している計算になります。 これが3年続けば、37,500円 × 36ヶ月 = 135万円の未払い残業代です。

計算前に確認:手当の除外ミスに注意
残業単価の計算から除外できる手当は、法律で限定列挙されています。 - 家族手当(扶養家族の人数に応じて変わるもの) - 通勤手当(実費支給型) - 住宅手当(住居費に応じて変わるもの) - 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる手当(賞与・四半期手当など) これ以外の「職務手当」「役職手当」「技能手当」などは必ず計算基礎に含めます。 会社がこれらを除外して残業単価を低く抑えているケースも多く見られます。

給与明細の各手当が何に基づいているか不明な場合は、給与明細がおかしいときの確認ポイントも参考にしてください。

「みなし残業だから仕方ない」という会社の言い訳への反論

「固定残業代があるのだから、何時間残業しても追加の給料は出ない」、そう言い切る会社は少なくありません。

ただ、これは会社に都合のよい解釈です。 法的には「みなし時間を超えたら超過分を払う義務がある」のが原則であり、払わないことは労働基準法違反にあたります。

会社側のよくある説明法律上の正しい解釈
「固定残業代があるから残業代は出ない」固定時間を超えた分は追加支払い義務あり(労基法§37)
「みなし残業制で採用したから問題ない」3条件(明示・超過払い・区分)を満たさなければ違法
「残業代込みで入社したのだから文句は言えない」違法な条件への合意は無効(労基法§13)
「うちの業界は全部このやり方だ」業界慣行は違法行為の免責にならない

「入社時に合意した」という罪悪感を持つ必要はありません。

労働基準法が定める基準に達しない労働条件は、当事者間の合意があっても無効とされます。 制度が違法に運用されているのであれば、それは会社側の問題です。

みなし残業が「ブラック利用」されているサインを確認してください
- 固定残業代の時間数が求人票にも契約書にも記載されていない - 「うちは固定残業だから」と繰り返すだけで超過分の計算を一切してくれない - タイムカードや勤怠管理がなく、残業時間が記録されていない - 残業申請に事前の上司承認が必要で、事実上申請できない空気がある これらが重なっている場合、サービス残業が当たり前の職場の問題点で解説しているような環境と本質的に変わらない状況かもしれません。

未払い残業代を取り戻す4つのステップ

ここからが実際のアクションです。

「会社に言いにくい」という気持ちはよくわかります。 でも、最初のステップは「証拠を集める」ことなので、会社への申し出は後回しで構いません。

1
残業時間の記録を手元に保全する
タイムカード・入退館記録・PCのログオン履歴・メールのタイムスタンプ・業務チャットの履歴などを保存します。会社は労働者から勤怠記録の開示を求められたら応じる義務があります(労働基準法施行規則第55条)。
2
未払い額を計算して請求根拠を整理する
前のセクションの計算方法で、月単位・年単位の未払い額を算出します。「いくら請求するか」を数字で示せると、相談も交渉もスムーズになります。
3
内容証明郵便で会社に支払いを請求する
口頭での話し合いが難しい場合は、内容証明郵便で書面による請求を行います。時効を止める効果(催告)もあり、弁護士・社労士に依頼すると確実です。
4
解決しない場合は労働基準監督署か弁護士に相談する
会社が支払いに応じない場合は、労働基準監督署への申告か、弁護士・社労士への依頼で未払い分を請求できます。労基署への相談は匿名でも受け付けています。

労働基準監督署への相談方法や申告の手順は別記事で詳しく解説しています。

時効が来る前に動くことが大切です
2020年4月以降に発生した未払い残業代の時効は3年です(労働基準法第115条)。 「どうしようか迷っている間に時効が来た」という事態を避けるため、気づいた時点で早めに証拠を保全することをおすすめします。 内容証明を送付すると時効が6ヶ月間延長されます(時効の完成猶予)。
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みなし残業の問題がない職場に転職したい方へ
転職エージェントに相談すれば、求人票の「固定残業代○時間含む」という記載の実態や、残業の実情を事前に調べてもらうことができます。一人で求人を読み解くより、ずっと安心です。
転職エージェントどこが良いの?そんなあなたへ【転職エージェントナビ】

「会社に言えない」という壁を越えるために

残業代の請求を躊躇させる最大の理由は、「上司との関係が悪化する」「会社に居づらくなる」という不安です。

そう感じるのは当然のことで、一人で抱えているとなかなか動けなくなります。 ただ、いくつかの相談窓口を知っておくと、状況は変わってきます。

一人でできる「最初の一歩」

  • 厚生労働省の「総合労働相談コーナー」に匿名で電話・来所相談する(全国の労働局・ハローワーク内に設置、無料)
  • 弁護士や社労士の無料相談を利用する(初回無料の法律事務所も多い)
  • 労働基準監督署に匿名で申告し、会社への調査を求める
  • 個人加入できるユニオン(合同労組)に入って団体交渉を求める

人によっては、会社に直接言わずに外部機関を通じて問題を解決できる場合があります。 厚生労働省が公表している「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を見ると、固定残業代の違法運用で是正勧告を受けた企業が多数あります。「自分だけが変な会社にいる」わけではありません。

動けない自分を責めないでください
「おかしいとわかっているけど言えない」という状況は、弱さではありません。 職場の力関係の中でそう感じるのは自然なことです。 まずは「匿名で相談できる窓口に電話する」という一歩だけで構いません。

それでも、この職場でいいのか迷っているあなたへ

残業代の問題を解決したとしても、「そもそもこの会社でいいのか」という問いに向き合う人もいます。

未払い残業代を請求できたとしても、会社の体質が変わるとは限りません。 「みなし残業を使って人件費を削減する」という方針が続いている限り、同じ問題が繰り返される可能性があります。

サービス残業は違法。残業代を取り戻す全手順と対処法を参考にして、まずは手元でできるアクションをやり切ってみてください。 それでも職場が変わらないと感じたとき、環境を変えることを考えるのは逃げではありません。

みなし残業の問題は、一人で抱えていても解決しません。まず相談窓口に話すことから始めてみてください。
転職エージェントに相談してみる →

よくある質問

Q1. 固定残業代40時間分と書いてあれば、40時間残業しても残業代は出ないの?+
40時間以内の残業であれば、固定残業代の範囲内として追加支払いは不要です。ただし41時間目以降の残業代は超過分として別途支払わなければなりません(労働基準法第37条)。「固定残業代があるから何時間残業しても同じ」という説明は、この条件を満たしていれば法令違反にあたります。
Q2. 雇用契約書に「残業代込み月給25万円」とだけ書いてある場合、何時間分と見なされる?+
時間数が明記されていない場合、固定残業代としての有効性が認められない可能性があります。最高裁判例(日本ケミカル事件・2017年)では、固定残業代が有効とされるためには「通常の労働時間の賃金と残業代が区別できること」が条件とされています。時間数の記載がなければ、固定残業代ゼロとして計算し直した全額の残業代を請求できる場合があります。
Q3. 未払い残業代の時効はいつ?退職後でも請求できる?+
2020年4月以降に発生した未払い残業代は、各賃金の支払日から3年間請求できます(労働基準法第115条)。退職後でも同様で、退職してから3年以内に支払日を迎えた分は請求可能です。ただし内容証明の送付や訴訟の提起で時効を止める手続きが必要です。気づいた時点で早めに行動することをおすすめします。
Q4. 残業代を請求したら、嫌がらせや不当な扱いを受けることはある?+
労働基準法第104条第2項は、申告を理由とした解雇・不利益な扱いを明確に禁じています。労基署への申告を理由にした解雇は違法です。ただし、職場の雰囲気が変わることは実際にある場合があります。弁護士や社労士を通じて交渉することで、直接的な対立を避けながら解決できることもあります。
Q5. 固定残業代60時間分というのは合法?金額が少ない気がするが確認方法は?+
時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です(労働基準法第36条)。60時間の固定残業代は、36協定の特別条項(月100時間未満)を締結している場合のみ合法です。また月60時間超の時間外労働は割増賃金率が1.5倍以上に引き上げられます(労働基準法第37条第1項ただし書き)。金額が適正かどうかは、固定残業代を除いた基本給をもとに「1時間あたり賃金 × 1.25 × 60時間」を計算し、実際の固定残業代と比較することで確認できます。

次のステップとして、サービス残業の全手順と対処法もあわせて読みながら、まずは手元の記録を集めることから始めてみてください。